原点回帰。
人生や仕事で行き詰まったり悩んだりした時は原点に帰れと言われる。
しかし、原点に帰れとはどういうことだろう。
法律の世界では、条文を紐解く、という言い回しがあり、行き詰まったときには六法全書の条文をよく読め、と言われる。
難解な学説判例も、単なる条文の素朴な文言からスタートしており、そこから様々な価値判断や理論が交錯して話がややこしくなっている。
条文に立ち返ることで思考がシンプルになると、ややこしい話のポイントが自然と掴めるようになるのである。
まあ、条文を紐解く、とは実に見事な言い回しだな、と私は思うのだが。
私が原点回帰をする場合も同様に考えてみよう。
悩んだり迷ったりしている時というのは要するに、何らかの決意をもって始めたシンプルな1つのことが、次第に話がややこしくなっている、ということなのだ。
その場合、最初の決意とは何だったのか、なぜ決意したのかが原点で、そこを紐解いていけば適切な答えが見つかるはずである。
お金のため? 家族のため? 夢の実現のため? 社会貢献のため?
原点は人それぞれだが、私の場合、キーワードは2つ。
東京駅前には、慶應のビジネススクール(慶應MCC)があり、「夕学五十講」という講演会をしているが、2018年後期の2つの講演会(夕学五十講)から引いてきたものである。
「好きなことで人の役に立てる時代」(2018年11月27日 吉田ちかさん)
「人生にもう遅いはない」(2018年12月7日 若宮正子さん)
12月7日の「人生にもう遅いはない」。
講演者の若宮正子さんは今や超有名人。
ひな壇アプリで一躍世界的に有名となった80歳の「エンジニアおばあちゃん」である。
その若宮さんに「人生にもう遅いはない」と言われると何とも説得力がある。
80歳なのに、かくしゃくとしており、講演はユーモアたっぷりでおもしろかった。
チャレンジ精神があれば年齢は関係ありません、と若宮さんは断言されていたが、新しいこと好きなことを見つけたら、年甲斐もなく追いかけてみよう、ということだ。
まあ、こちらはほとんど解説を要しないと思う。
11月27日の「好きなことで人の役に立てる時代」。
いまは好きな仕事をして自由に生きられる時代なので、思い切ってそうしてみよう、ということなのだが、私にとってこの講演会は2018年のベストであった。
その日、私は日暮里駅で下車した。
講演会の前に上野周辺の美術館を回りたくなってふと降り立ったのだが、駅前の谷中霊園に接する狭い石段の道を通り抜け、谷中銀座の商店街に出た。
商店街の坂を下ると千駄木駅付近に出るのだが、坂の途中を左へ曲がると目的地の朝倉彫塑館がある。
途中、右手の酒屋(??)の店先で、昼寝をする猫を見かけた。
向かいの甘味処は、繁盛しているようだ。
しかし、シャッターの閉まった店舗もいくつかある。
世は株式不動産のバブル。
なのに、昔とは違い、商店街はさびれてしまって、すっかり格差社会の様相である。
歩き始めて数分、朝倉彫塑館の案内板を見つけ左折、予定どおり到着。
彫塑館の玄関前には立派な全裸男性の立像があった。
館内の展示作品を見終えた帰り、私はその立像をじっと眺め、写真を撮り、庭先のベンチで休んだ。
しばらく座って玄関を出入りする客を眺めていると、女性たちはみな、立像を無視し、出入りするのもどことなく早足である。
なるほど、女性が私のようにじっと眺めて立像の写真を撮るわけにはいかないだろう。
でも、彼女たちはきっと、チラ見しているに違いない!!
都内の駅でホームレスとすれ違うときもそうだが、チラ見をしなければ無視もできないのだから。
その後、日暮里駅から東京駅へ。
講演会の時間まで休憩するため、八重洲方面の日本橋高島屋に行った。
私は、エレベーターガールのいる古めかしいエレベーターで、地下1階から本館8階まで上がった。
この日本橋高島屋本店、去年増改築されたばかりなのだが、増改築の結果、非常にややこしい造りとなっている。
2度のリニューアルオープンで、本館8階が新館6階、東館5階に繋がるという奇妙な連絡通路ができあがったのだ。
こうなった理由は天井の高さの違いと思われるが、これでは自分が何階にいるのかよく分からない!!
さて、本館8階から東館5階の通路の途中に、「LES CAVES DE TAILLEVENT」という超一流のワインバーがある。
グルメ街に隣接するのにいつ見ても空いているが、店先のショーウィンドウに飾られた伝説のワインボトルと記念写真、これは一見の価値がある(写真はウィンザー公爵、クリスチャンディオール)。
そろそろ話を戻そう。
講演会の時間が近付いたので私は丸の内方面へ。
慶應MCCの講演は「夕学五十講」だけ、新丸ビル7階の大会議室で行われる(他の講座は三菱一号美術館の手前のビルの方で狭い!!)。
私は、新丸ビルの1階からエスカレーターで7階へ。
「好きなことで人の役に立てる時代」。
講演者の吉田ちかさんは、英会話で人気のYouTuber。
が、その経歴は異色で、彼女は元経営コンサルタント。
その彼女の講演はもちろん素晴らしかった。
しかし、私が最も着目したのは、彼女の旦那さん(覆面の旦那さん)であった。
旦那さんも経営コンサルタントだというが、どうも、この旦那さんこそが彼女の成功の原動力、立役者と思われるのである。
つまり、吉田さんが舞台に立つ主演女優なら、旦那さんは客席から彼女を見守る演出家、あるいは冷静沈着なストラテジスト、献身的なプロデューサー、マネージャーである。
なるほど、そういうことか!!
そもそも私は、強欲な人間ではない。
だから自分で自分のための事業をするのは不向きで、誰かのために何かをする方が性に合っている。
そういうわけで経営コンサルタントやアドバイザー(顧問)といった仕事のほうがたぶん私の適職なのだが、例えば私が顧問をする会社の社長はいい年の男性である。
だから基本的にはビジネスライクの関係である。
しかし、吉田ちかさんと背後の経営コンサルタントの旦那さんはどうだろう。
ふたりは揺るぎのない愛情で結ばれている。
愛情に基づいて役割分担をして成功しているということだ。
「好きなことで人の役に立てる時代」、その真意は恐らく、「女性」が「好きなことで人の役に立てる時代」になった、という意味だと私は思う。
吉田さんは聴講者の女性たちに対し、世間の男女差別や同調圧力などに屈せず、女性は好きなことをしていいのです、と言いたかったのである。
しかし、その際には1人だけで何かをするのではなく、パートナー(の男性)と二人三脚で、役割分担をして取り組む方が圧倒的に成功しやすい~というのが私の補足意見である。
また、吉田さんご自身もそのことを暗に指摘しておられたし、その実例が自分です、と言いたげでもあった。
ちなみに、もう少し補足すると、古い日本的な価値観が見事に崩壊している現在、ようやく男性が、「好きな人の役に立てる時代」になったのだと思う。
男女の役割分担が、保守的な時代とはひっくり返ることもあるのだ。
ほとんどの成功者は独力で成功したのではなく、覆面の、影の、見えない功労者がそばに付いて成功している。
そこは人々に明かされないか、人々は興味を持たない。
典型的には、偉大な男性の奥さんの内助の功である。
21世紀のジェンダー平等の時代においては、男女の役割も相対的であっていい。
女性の成功者とその影の功労者たる男性、このような役割分担の男女の生き方は、今世紀のジェンダー平等を象徴する新しいトレンドとなるのではないか。
ここで成功を欲する野心的な女性は、最初に人生のパートナー選びを熟考する必要がある。
パートナー選びこそが成功の第一歩。
彼女の理想の恋人の条件は??
私見によれば、①マメで優しい、②頭がいい、戦略家、③ステータス&人脈、④控えめ、である。
吉田さんの場合、それは他ならぬ、覆面の旦那サマということなのだが、覆面の旦那サマというのは、今後の男性のイケてる生き方のトレンドになると予測する。
うん、トレンド大好きな私も、それ、ちょっとやってみたい!!