私はどういうわけか、この裁判の支援者なのである。
支援の理由は利害関係があるからではない。
また、必ずしも、けしからんとか、かわいそうとか、そういうことを思ったからでもない。
2019年当時、この裁判の原告たちが、キャンプファイヤーのウェブサイトで寄附を募っていたのだが、必要な金額の2~3割程度しか集まっていなかった。
私は募集記事をたまたま見かけたが、重要な憲法訴訟なのに資金不足では、、、と思って少しのお金を出したのだ。
そして募集の締切り直前に、クラシック音楽の師匠Iさんにもこの話をそれとなく伝えたが、その数日後、募集金額以上の資金が集まっていて、不思議なこともあるんだなあと思った。
さて、お金を出すとせっかくなので話も聞きたくなる。
話を聞くと続きが気になる。
事実は小説よりも奇なり、である。
ということで、この裁判に関わる私は、続きが気になる小説の読者のようなものである。
裁判では、国籍法11条1項が憲法13条(幸福追求権)、14条(法の下の平等)、22条2項(国籍離脱の自由)などに違反しており違憲ではないかが争われている。
(国籍の喪失)
第十一条 日本国民は、自己の志望によつて外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う。
2 外国の国籍を有する日本国民は、その外国の法令によりその国の国籍を選択したときは、日本の国籍を失う。
(国籍の選択)
第十四条 外国の国籍を有する日本国民は、外国及び日本の国籍を有することとなつた時が二十歳に達する以前であるときは二十二歳に達するまでに、その時が二十歳に達した後であるときはその時から二年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならない。
2 日本の国籍の選択は、外国の国籍を離脱することによるほかは、戸籍法の定めるところにより、日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣言(以下「選択の宣言」という。)をすることによつてする。
第十五条 法務大臣は、外国の国籍を有する日本国民で前条第一項に定める期限内に日本の国籍の選択をしないものに対して、書面により、国籍の選択をすべきことを催告することができる。
2 前項に規定する催告は、これを受けるべき者の所在を知ることができないときその他書面によつてすることができないやむを得ない事情があるときは、催告すべき事項を官報に掲載してすることができる。この場合における催告は、官報に掲載された日の翌日に到達したものとみなす。
3 前二項の規定による催告を受けた者は、催告を受けた日から一月以内に日本の国籍の選択をしなければ、その期間が経過した時に日本の国籍を失う。ただし、その者が天災その他その責めに帰することができない事由によつてその期間内に日本の国籍の選択をすることができない場合において、その選択をすることができるに至つた時から二週間以内にこれをしたときは、この限りでない。
(国籍法)
11条は日本国籍を自動喪失する場合を定めている。
では、どういう場合に自動喪失するのか。
まず1項、自己の志望によって外国籍を取得した時に日本国籍を自動喪失するという。
例えば日本国籍のみを有するXさんが、日本からスイスに移住してスイス国籍を取得した時に、日本国籍を失うということだ。
次に2項、すでに外国籍を有する日本国民は、その外国の法令によりその国の国籍を選択した時に日本国籍を自動喪失するという。
例えば、ドイツ在住で、生まれた時から日本国籍とドイツ国籍を有するYさんが、ドイツ国籍を選択するということは、日本国籍を失うということなのだ。
続いて14条1項を見てほしい。
ようするに、複数国籍を有する日本国民は、2年以内に(未成年は成年になった時から2年以内)どちらかの国籍を選びなさい、ということであるが、そうすると11条2項の結果がもたらされるのは言うまでもない。
11条1項は複数国籍の事前防止規定であるが、これだけでは法の隙間ができるので、11条2項、14条1項があり、こちらは複数国籍の事後解消のための規定である。
この裁判の争点は11条1項である。
ただ、裁判で原告の主張が認められて11条1項が違憲無効となっても直ちに救済されるわけではない。
原告は11条1項が違憲無効となった効果として理論的には日本国籍を取り戻せるかに思えるが、複数国籍の状態となるため14条1項の適用場面となり、14条1項で国籍選択を迫られることとなるからである。
しかし、現時点ではまだ14条の方を争点とする当事者適格(裁判をする資格として要求される利害関係のようなもの)がなく、11条1項から争う必要がある。
かつて日本は貧困の国、人口増の国であった。
だから、日本政府は海外に移住する日本人のことはもう知りませんよ、という態度だったので、このような制度ができたといわれる。
つまり、海外に移住するなら、もう帰って来るな、帰って来られると政府は面倒を見切れない、ということなのだ。
ところが、いまの日本は当時とは正反対、人口減少に悩む豊かな国となった。
よって、この制度がないほうが政府も国民も都合がいいはずなのだが、、、
さて、政府側の弁護士は合憲と言うのだがその理由は説得力がない。
報告会の質疑応答で、学説はどうなっているのかという質問があった。
ここで原告側弁護人の仲晃生先生が答えていたことが興味深かった。
まず、国籍法は超マイナーな法律なので、みんな、よく知りません。
確かにそうだ。
そもそも日本人は島国に住んでおり、国籍のことなんか考えたこともない人がほとんどだと思う。
実は、憲法学者もこの条文にはほとんどタッチしていない、教科書にもほとんど載っていない、と仲先生はいっていた。
それなら、判決を書く裁判官も困っているのではないか!?
この事件はいわゆる「レアケース」というやつだと思う。
次回の口頭弁論は5月。
報告会では、原告側が勝てそうな感じがする、とのことだが、どうだろうか。
今後、少しでも多くの人たちがこの問題に興味を持ってくれるといいのだが、どうも、法理論的な話ばかりで、具体性に欠くところもあり、まだまだ時間がかかりそうな気がする。