2020/08/06

ホスピタルアートとは何か

きのうは、名古屋市立大学のホスピタルアートマネジメント講座(第5回)があった。
これは、なごやヘルスケアアートマネジメント推進プロジェクトが主催しているもので、毎回、病院アートの業界関係者を講師に招き、2時間ほど勉強会をする。
きのうの講座の内容はまた別の機会に書くとして、今日はそもそもホスピタルアートとは何なのかを書こうと思う。

ホスピタルアートをアートセラピーのことだと思っている人も多いようである。
しかし、ホスピタルアートとは、アートセラピーだけを意味するものではない。
都内のホテルを思い出してほしい。
ロビー、ラウンジ、廊下、部屋、いろいろな場所に絵画が飾られているかと思う。
ビジネスホテル、帝国ホテル、ラブホテル、どういうホテルを思い出してもよいが、ホテルはお客さんをもてなすところであり、インテリアにもこだわりがある。
かたや、都内あるいは地元の総合病院はどうか。
最近ではしゃれた病院が増えたものの、病院のなかは殺伐としており、絵画など飾られていないところがまだ多いだろう。
しかし、病院は入院患者が「住む」「暮らす」空間であり、ホテルと同じくらい「ホスピタリティー」が要求される、そういう新しい考え方(?)がある。
まあ、欧米ではそれほど新しくないが、日本ではまだ新しい。
白い壁の待合室、夜も眠れない病室、無機質な検査室、薄気味悪い手術室、どれも患者に不安を与えるので、アートでこの問題を解決しようということだ。





いや、私は殺伐とした病院でも気にならないネ。
病院は治療のための場所であり、ホテルとは違うんだヨ。
私はアートよりテレビで巨人戦を見たいんだナ。

こう思う年配の男性も多いかもしれない。
だが、自分の娘や孫が入院するとしたらどうか。
あるいは、死期の迫った自分の母親が入院するとしたら。
病院アートとは、広めに解釈すると、病院に「いやしの環境」を作るための方法論のひとつで、その方法としてアートを用いることである。
例えば、大病院にはふつう、緑の芝生やベンチのある公園があり、桜の木などもあり、春になると入院患者が車いすで桜の木の下へ行き、看護師さんとイチャイチャしていやされる、というようなことはたぶんないと思うのだが、病院のいやしの環境の典型例は公園である。
まあ、病院アートは、公園のような役割を果たし、患者にも病院関係者にもいやしの効果を与えることを目指している。

ただ、ホスピタルアートには課題がいくつもある。
何といっても、医師は合理主義者であり、この手の話に懐疑的なことが問題である。
また、病院は高度な医療機器のための予算は組んでも、効果の不明確なアートのための予算を組むのはなかなか難しい。
そのため、顧客が少なく、市場が小さいようだ。
まだ、病院アート市場は黎明期と思われる。
しかし、日本はいつも欧米を追いかけるので、時間をかけて変化するだろう。
このとき、アーティストと病院の中に入り、現場を仕切るのがアートディレクターである。
この職業人が少ないため、アートディレクターの養成も兼ねて、このような講座を開いているのである。
さて、講座はあと3回だが、終わったら続きを書くつもりである。