以前、報道番組の街頭インタビューを受けたことがある。
私はただのそこらの一般人なのに、カメラマン、インタビュアー、記録係、アシスタントなど総勢4人に囲まれた。
このように、テレビ番組はプロフェッショナルがそれなりのコストをかけて作り上げているものだ。
だから、テレビ局が気合を入れると、ネットの動画配信よりも数段面白いものができるはずなのだ。
これに対し、ネットの動画配信は、にわかのシロウトが、コストを惜しんで作るものが多いので、作り込みが甘いというか、まあ、ホームビデオの一種だと思う。
しかし、テレビは成熟産業となり、昔のような冒険心あふれる作り手も少なくなったし、優等生の集団となってしまった。
テレビの広告市場は衰退の一途、ついに、ネットのそれよりも市場規模が小さくなったというし、かくしてテレビはマンネリ化し、停滞期、衰退期にある。
もっとも、たまには面白いテレビ番組もある。
たまたま深夜に見たが、「月曜から夜ふかし」という深夜番組は、恐らく、名物番組になるのではないか。
マツコデラックスが面白い。
ゴールデンタイムよりも深夜番組に向いている芸能人だと思う。
ポストタモリということではないのだが、タモリもゴールデンには向いていない。
まあ、そうはいっても最近は、深夜の芸能人はギャラが安くてやってられないのかもしれない。
ただ、何だかマツコはこの番組を好きでやっているように見えたので、ギャラは関係ないのかも。
女装した中年男性が、射撃を披露する動画がおもしろかった。
そんな「月曜から夜ふかし」は、かつてのテレビ黄金期にどこかで見たノリである。
目新しい点はYouTube動画を絡めていることだが、この番組で紹介するとそのマイナーなYouTuberのチャンネル登録者が5倍10倍にもなるという。
テレビの影響力はまだまだ強いということだ。
さて、この番組に登場した沖縄の飲食店経営者は、30代の男性で、どこにでもいそうなお気楽社長である。
新型コロナウィルスの影響で居酒屋は経営危機、現在1億円の借金があると言って能天気に笑っている(正確には1億1600万円!!)。
まあ、笑うしかないだろう。
番組内で、彼は終始明るく行動的だが、1億円を返済できる事業計画があるわけではなく、日々悪戦苦闘している。
賃料の高い表通りの店舗を閉鎖し、別の場所に新しい店舗をオープンする準備をしている。
店の名前は「ニューオキナワ」。
新しい沖縄を作りたい、ということのようだが、何ともビミョウなネーミングセンスだ。
店舗の出入口は彼が設計したものだが、誰が見てもこの出入口は不便すぎる。
メニューの数々も彼が提案したものだが、しゃれたものではなく、私はあまりおいしそうに見えなかった。
ほかにも適当な採用面接の様子、子供の落書き帳のようなアイディアノートも公開される。
しかし他方で、彼はコロナ禍でもオンラインショップを立ち上げ、月商300万円を売上げ、地元の食品メーカーとタイアップして新商品を考案したりもしている。
ああ、そうか、彼はダサい社長のふりをしているんだ。
どうせ、全て演技なんでしょ??
だってこれは、テレビの娯楽番組なのだから。
そうだろうか。
いや、たぶん本当にそういう人なのだと私は思う。
この番組は世間の飲食店経営者を勇気づけることがコンセプトだと思われるが、それなら、彼が本当にそういう社長であることが重要なのだ。
それにしても、今の日本に足りない人材は、こういうお方たちではないだろうか。
偏差値の高い知的なエリート、AIを熟知する理系のエンジニアなどではなく。
日本は慢性的な不景気で、こういう能天気な成功者や、失敗から立ち直った成功者を、ほとんど見かけなくなった。
不必要に高い水準の教育を受け、ムダに都会的で礼儀正しく、無意味に物静かで知的な話をする、そんな人間が大量生産された。
そういう人間が増えるとかえって社会の活力がなくなり、閉塞感が生まれることになる。
官僚、博士、パソコンと1日中にらめっこする技術者や研究員、そんな人ばかりの世の中は息が詰まるのではないだろうか。
技術ばかりが進歩し、かえって日本の景気は衰退の一途となってしまいそうだ。
日本の社会はもう少し、おおらかで、テキトーで、無計画な状況となるべきで、日本人のマインドも、今後その方向へ、大胆に変化した方がいいと思うのだが。
というわけで、月曜から夜ふかし~を見ながら、私も少し、この沖縄社長を見習って能天気に生きようと思った!!
「アホは良識ある人たちの反面教師、などという以前に、アホは社会の潤滑油ではないのか、時にはアホが世界を進歩させることだってあるのではないかと思え始めたからだ。良識ある人ばかりがそつなく時代を押し進めていく綺麗事の世界を考えると、なんとなく寒々しい気分になる」
(筒井康隆「アホの壁」)。