2021/12/16

何かの用事って、何の用事?

不動産会社の部長Fさんと私は、2年ぶりに渋谷で再会を果たした。
コロナ禍の2021年12月14日のことである。
私たちは2020年2月、新型コロナウィルスが蔓延する直前、都内のビジネスイベントで知り合った(2020/02/06「中目黒散歩」、2020/02/12「北村明子さんのフランツリスト「歌の本」」)。
その後は長期の外出自粛で、何度かランチの約束をしたものの果たされることはなく、私たちはLineやZOOMで細々とやりとりを続けた。
しかし、それがかえってよかったみたいで、ビジネスの場で知り合ったのに、いつのまにか私たちは気さくにプライベートなことを話すようになったのだ。
そして2021年12月14日、私たちは約2年の時を経て、渋谷KOEホテルで再会を果たした。

再会のきっかけは、渋谷KOEホテルの倉敷安耶(Aya Kurashiki)さんの展示会であった。
私は彼女の展示会に誰かと一緒に行こうと思って何人かにお声がけしたのだが、意外にも、アートなんて興味のなさそうなFさんが興味を示し、見に行きますと言った。
Fさんの不動産会社は東京駅近くにある。
テレワークで出社なんてほとんどしないと言っていた。
しかし、よく分からないのだが、「12月14日は何かの用事があるのでOKです」ということだった。


アート村工房、パソナビル


この日、私は早朝に家を出て、渋谷に行く途中、東京で用事を済ませた。
帰りに東京駅前のパソナビルに寄り道をし、エントランスホールのアート村工房という店でパウンドケーキのセットを買った。
アート村工房は障がい者支援施設が経営する雑貨屋である。
雑貨や絵画のほか、菓子類もあって、なかなか好評のようである。
店を出て入口の立て看板を見ると、障がい者アートについて説明があった。
私は立ち止まって読んでみた。


アート村工房


「才能に障害はない」、ほうほう、なるほど。
才能というのは、障害があることで、かえって伸びたりすることもあるのかもしれない。
例えば、目の見えない人の持っている感性の鋭さである。
また、才能を魅力という言葉に置き換えることも可能だと思う。
つまり、魅力は障害と無関係で、障害があることで、かえって魅力的な人であったりもするかもしれない。

それにしても、障がい者アートというと、以前100円ショップのダイソーの店内で、チラシを見かけたことがある。
これって、最近のトレンドなのだろうか??

ああ、思い出した。
これって、以前受講したアートマネジメントの研修で出てきた話だ。
「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」というのが最近できて、その影響(助成金など)もあるのではないか。

第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、文化芸術が、これを創造し、又は享受する者の障害の有無にかかわらず、人々に心の豊かさや相互理解をもたらすものであることに鑑み、文化芸術基本法(平成十三年法律第百四十八号)及び障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)の基本的な理念にのっとり、障害者による文化芸術活動(文化芸術に関する活動をいう。以下同じ。)の推進に関し、基本理念、基本計画の策定その他の基本となる事項を定めることにより、障害者による文化芸術活動の推進に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって文化芸術活動を通じた障害者の個性と能力の発揮及び社会参加の促進を図ることを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「障害者」とは、障害者基本法第二条第一号に規定する障害者をいう。
(基本理念)
第三条 障害者による文化芸術活動の推進は、次に掲げる事項を旨として行われなければならない。
一 文化芸術を創造し、享受することが人々の生まれながらの権利であることに鑑み、国民が障害の有無にかかわらず、文化芸術を鑑賞し、これに参加し、又はこれを創造することができるよう、障害者による文化芸術活動を幅広く促進すること。
二 専門的な教育に基づかずに人々が本来有する創造性が発揮された文化芸術の作品が高い評価を受けており、その中心となっているものが障害者による作品であること等を踏まえ、障害者による芸術上価値が高い作品等の創造に対する支援を強化すること。
三 地域において、障害者が創造する文化芸術の作品等(以下「障害者の作品等」という。)の発表、障害者による文化芸術活動を通じた交流等を促進することにより、住民が心豊かに暮らすことのできる住みよい地域社会の実現に寄与すること。
2 障害者による文化芸術活動の推進に関する施策を講ずるに当たっては、その内容に応じ、障害者による文化芸術活動を特に対象とする措置が講ぜられ、又は文化芸術の振興に関する一般的な措置の実施において障害者による文化芸術活動に対する特別の配慮がなされなければならない。
(国の責務)
第四条 国は、前条の基本理念にのっとり、障害者による文化芸術活動の推進に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。
(地方公共団体の責務)
第五条 地方公共団体は、第三条の基本理念にのっとり、障害者による文化芸術活動の推進に関し、国との連携を図りつつ、自主的かつ主体的に、その地域の特性に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。
(財政上の措置等)
第六条 政府は、障害者による文化芸術活動の推進に関する施策を実施するため必要な財政上の措置その他の措置を講じなければならない。


渋谷西武百貨店美術画廊


東京駅から山手線で渋谷駅へ、20分ほどで着いた。
約束の時間まで30分以上あるので私はとりあえず西武百貨店の美術画廊へ。
ここは11月末に来たばかり。
そのときは倉敷さんの絵もあったのだが、すでに展示替えとなり、同じ場所には別の作家の作品があった。

私は奥の広い部屋へ。

おや、まだ早い時間なのに私以外にも客が1人いる。
特徴的なデザインのマスクをした中年男性であるが、ひとつひとつ熱心に展示作品をチェックしている。
おしゃれな服装だし、アーティストか、美術評論家か、マスコミの人か。

そのうち彼は、女性店員にいろいろな質問をし始めた。
あの出っ歯のキャラが、彼のお気に入りなのかな、、、




そろそろ時間なので坂の上の交差点のKOEホテルへ。
Fさんは1階のカフェで待っていた。
別に懐かしがる間柄でもなく、男どうし簡単な挨拶を交わして2階に上がった。
広々とした服屋の一角に小規模のギャラリースペースがあり、そこでブルーピリオドの共同展示会をしているのだが、1階のカフェはほぼ満席なのに、2階の服屋は客が誰もいない。






2人で絵をバックに記念撮影をした。
その後、窓の外の渋谷の景色を眺め、この物件のことを話した。
しかし、先ほどから彼はこの物件のことばかり気にしていて、飾ってある絵には興味を持っていないことが明らかだった。
それならば、なぜ誘われて来たのだろう。
そういえば記念写真を撮ってくれたとき、倉敷さんの絵が一番素敵ですね、と私に言っていた。
が、彼がその絵をじっくり眺めた気配はなかったように思う。

その後、私たちはホテルを出て、渋谷駅に戻り、反対方向へ。
Googleマップを頼りに、マークシティ近くの超人気店ラーメンはやしを目指した。
男2人なら、昼食は気兼ねなく、ラーメンで決まり!!ということだ。
私は行列のできる店は敬遠するが、ここは数少ない例外である。
寒い中、昼休みの会社員と学生に混じって列に並び、かれこれ30分近く待った。

う~ん、いつもと変わらない味で、とてもおいしい。
ふたりとも無言で食べ、10分ほどで食べ終わって店を出た。




「Fさん、30分並んだかいがあったのでは??」
「ええ、おいしかったです。」
「でも、これだけ客が待っているんだから、あんな狭い店ではなく、広いところに引っ越してくれるといいのに。」
「渋谷は家賃が高いんですよ。」
「どれくらいですか??」
「う~ん、坪単価、どれくらいかなあ。建物にもよるから、、、」
「これからどうします??」
「お昼を食べたので、コーヒーでも飲んで帰ろうかな。」
「もう帰るの?? 遠くから来たのに、早すぎない??」
「そうかな。」
「何か用事があるの??」
「いや、特には。」
「じゃあ、これから六本木のスタバにでも行きませんか??」
「いいですよ。」
「ああ、そうだ。Fさんに、おみやげがあったんだ。」
「なに? おみやげなんて、いいのに。」
「これ、パウンドケーキです。食べきれないから、Fさんの家の人数分、箱から取ってください。4つくらい持っていきます??」
「いやいや、うちは家内と私の2人だから2つで十分。」
「そうでしたっけ。うちも母と私の2人だからなあ、、、買い過ぎましたね。」


アート村工房のパウンドケーキ


その後、私たちは電車を乗り継ぎ、六本木へ。
六本木ヒルズのスターバックスで30分ほどくつろぎ、いろいろな話をした。
それは主に仕事の話、不動産の話だったが、Fさんはコーヒーを飲み終えると、片付けたい仕事があるから帰りたい、と言い出した。
何だかとても急いでいる様子なので、私は引き止めなかった。

私も今日は早く帰ることにして、一緒にスターバックスを出ると六本木駅の改札まで早足で歩いた。
日比谷線の改札口であっさり別れたが、私は駅のホームを歩きながら、なぜ彼はわざわざ見に来たのだろう、と考えた。
きっとFさんは、今日何かの用事があるから東京まで来ると言ってはいたものの、実は仕事(在宅ワーク)で多忙の最中だったのだ。
たぶん彼は、この絵を一目見るためだけに東京まで来てくれたのではないか。