2022/03/18

私たちは家族

この日の予定は、松戸⇒飯田橋⇒護国寺⇒駒込。
去年夏BNAWALLで壁画を見たことのある倉敷安耶(くらしきあーや、Aya Kurashiki)さんの作品を見る予定を2つ入れた。
1つ目は松戸の宮ノ越地下道の壁画である。
松戸駅東口から徒歩5分ほど、松戸市民会館から線路方向に住宅街を歩くと、宮ノ越地下歩道の入口がある。
ここは壁画スポットとして知られており、地下道を歩けば複数のアーティストの描いたカラフルな壁画が楽しめる。
倉敷さんの壁画が最新作で、そのタイトルは「獅子と牡丹」。




昼過ぎに到着し、私は地下歩道で動画を撮影したり、20分ばかり過ごした。
主婦や学生の自転車が絶えず往来し、地下道は彼らの話し声が響いたりしてにぎやかであった。
彼らは私とは違い、壁画の前を、自転車を押してただ通り過ぎるだけであるが、街中に当たり前にアートがあり溶け込んでいるということが重要で、通り過ぎる=気にしていない、ということではない。
もう見ている、知っているから通り過ぎるのであって、まあ、何というか、テレビで流れるコカコーラのCMを聞き流すのと同じようなもの。
アーティストの利益になるかどうかは別として、恐らく、アートのあり方としては、これはひとつの理想形だと思った。

その後、所用があり、上野広小路経由で飯田橋へ出た。
ホテルのパティスリーで贈答品を買ったついでに、カフェオレとシュークリームのセットを食べて休んだ。
最近洋菓子店を開業する予定のパティシエのNさんに、LINEで話すと、ザクザクした食感のはクッキーシューというそうで、その作り方の一部を教えてくれた。


シュークリームとカフェオレセット


所用が済んだのは夕方。
護国寺駅から地下鉄を乗り継ぎ、駒込駅に着いたのは5時過ぎになってしまった。
駅改札を出て線路沿いの坂道を下ると、路地に駒込倉庫という小さなギャラリーがある。
6人の若手アーティストの共同展示会をしており、6人のうちの1人が倉敷安耶さん。
ただ、倉敷さんは転写作品ではなく、家具を展示しているという。
駒込倉庫の中へ。
展示案内を読みながら作品を見て歩くと、私なりに何となく展示会の趣旨が見えてきた。


駒込倉庫


駒込倉庫1階


倉庫の名にふさわしい急階段を上がり、2階の細長い部屋へ。
入口の受付で職員に記帳を促されたので、私はしぶしぶ名前を書いて部屋の中央へ。
大型テレビに東南アジアの繁華街の記録映像が流れていたが、これはちょっと、銀座の資生堂ギャラリーっぽい感じがした。
さらに進み、部屋の一番奥へ。
窓際の白いカーテン、そばに西洋家具がおいてあり、これがトリの作品のようだ。


駒込倉庫2階、倉敷安耶、わたしたちは家族


駒込倉庫2階、倉敷安耶、わたしたちは家族


鏡の前の椅子に、帽子とメガネとマスク姿の小柄な女の子が座っていた。
が、まもなく立ち上がり別の場所へ行き、私の番になった。
ただ、近付くとどうもこの家具は古くさくて、誰かの遺品のようにも思えた。
なので私は座る気にはなれず、あちこち観察した後、鏡に向かって何枚か記念写真を撮った。
ほかにも鏡が何点か展示されている。
何かが転写された鏡もある。
鏡を使った素敵な展示というと、菅実花さんを思い出すが(2021年資生堂ギャラリー「仮想の嘘か」)、どういう意図の作品なのかしら。
以下は私の独断と偏見によるものなのであしからず。

倉敷安耶さんのこの作品は「私たちは家族」というタイトルで、3人で座って食べながら話せるようになっている。
展示の最終地点にあるのは、私たちにとって対話が最重要かつ最後の手段という示唆だろう。
この場所に座ればプーチンとバイデンも家族のように仲良くなれる。
ただし、よく見ると左右に飲み物は2人分あっても、お皿は1つだけだから、お皿の中の肉は共有で、お肉の分け方をめぐり2人の大統領の喧嘩が始まる。
するとそこに、作者の倉敷さんが白いカーテンの陰から静かにあらわれ、無愛想な態度で鏡の前に着席する。
大統領たちは何事かと顔を見合わせ喧嘩を中断する。
彼女は落ち着いた声で、「まあまあ、じいさんたち落ち着いて、カルシウムが足りない(`・ω・´)」などといい、2人が仲良くできるよう、ナイフとフォークでお肉を半分ずつに切り分ける。
そして2人に対し順番に、「はい、アーンして(*'ω'*) 入れ歯じゃん、ステキ♪♪」などといって、優しく食べさせてくれる。
こうなるともはや感激で、2人の男たちは目前の相手と仲良く、かたく、握手せざるを得ない。
かくして第三次世界大戦前夜、その危機は彼女のおかげで間一髪去ることとなるが、彼女が登場するときのBGMは、私の大好きな竹内まりやの「けんかをやめて」がよさそうだ。