ずいぶん前の話になるが2021年1月21日、東京地裁で国籍剥奪条項違憲訴訟の判決があり、結果は原告の負けだった。
この裁判については下記のようないきさつで見ているのだが、法理論的なことはすでに書いたとおりである。
2020年3月5日に国籍法11条1項の違憲裁判の口頭弁論があり、関係者向けの報告会を初めて聞いた。
私はどういうわけか、この裁判の支援者なのである。
支援の理由は利害関係があるからではない。
また、必ずしも、けしからんとか、かわいそうとか、そういうことを思ったからでもない。
2019年当時、この裁判の原告たちが、キャンプファイヤーのウェブサイトで寄附を募っていたのだが、必要な金額の2~3割程度しか集まっていなかった。
私は募集記事をたまたま見かけたが、重要な憲法訴訟なのに資金不足では、、、と思って少しのお金を出したのだ。
そして募集の締切り直前に、クラシック音楽の師匠Iさんにもこの話をそれとなく伝えたが、その数日後、募集金額以上の資金が集まっていて、不思議なこともあるんだなあと思った。
さて、お金を出すとせっかくなので話も聞きたくなる。
話を聞くと続きが気になる。
事実は小説よりも奇なり、である。
ということで、この裁判に関わる私は、続きが気になる小説の読者のようなものである。
(2020/02/25「国籍はく奪条項違憲訴訟(1) これはいわゆる「レアケース」??)」
弁護団の先生たちは勝てると自信満々に言ってたのだが負けたので、なんだ、話が違うぞ、ハズしたか、と思った。
でもよく考えると、弁護士が負けるかも、などと弱気な発言をするわけがない。
その後、東京高等裁判所で第2審が始まったが、何度か口頭弁論があり、最近新型コロナウィルスのほうもだいぶ落ち着いてきたので、一度裁判を傍聴してみることにした。
2022年3月29日。
今回は2回目の傍聴である。
開廷は午後3時。
2時半過ぎに東京高裁に到着し、手荷物検査をして中に入った。
法廷の待合室は堅い木椅子なので、今回は1階ロビーのふかふかのソファーで待ち、3時直前に法廷に入った。
傍聴人は20人以上、前回より少し増えたようだ。
裁判官、書記官、弁護人たちのいつもの退屈なやりとりがあり、私は目をとじてそれを聞いた。
原告にとっては人生の一大事でも、彼らにとっては毎日の何でもない「業務」なのである。
続いて原告弁護団の椎名弁護士が立ち上がり、陳述要旨を読み上げる場面になった。
おや、これって、、、今まで聞いたことのない、新鮮な話のような気がする。
理論的にも分かりやすくて筋が通っているのではないか。
以下、椎名弁護士の陳述要旨の最も重要な部分を引用する。
まず、今回の国籍はく奪条項違憲訴訟で問題となっている日本国籍は、在外邦人選挙権制限違憲訴訟で問題となった「選挙権を行使する権利」の根本に存在するものです。「選挙権を行使する権利」だけでなく、その他の諸人権の根本に存在するものです。したがって、憲法上の重要な権利であるどころか、その根本を構成する、極めて重要な憲法上の地位です(①)。
また、「選挙権を行使する権利」だけでなく、たとえば最高裁判所裁判官の国民審査に参加する権利、日本に帰国する権利、日本での居住の権利、日本での就労等の権利や職業選択の自由、日本での経済活動の自由など、日本国籍を有することによって保障される基本的人権が数多くあります。これらの基本的人権は、日本国籍を剥奪された後に争うことによっては、日本国籍を失った期間に享有し行使できていたはずの権利や自由について、その実質を回復できません(②)。
さらに、奥平康弘氏のエッセイが示したように、生来の日本国籍は個人のアイデンティティの根幹をなすものです。生来の日本国籍が一旦剥奪されてしまうと、アイデンティティの継続性・一貫性が失われ、その実質を事後的に回復することはできません(②)。
今回の訴訟の控訴人7は、スイス国籍取得のための要件を明らかに満たしています。控訴人7のスイス国籍取得を妨げるような事情はありません。そのため、控訴人7がスイス国籍取得を申請した場合、客観的にみてスイス国籍を取得する相当高度の蓋然性があります。
控訴人7はスイス国籍の取得を望み、同時に日本国籍を失うことを何としても避けたいと望んでいます。そのような控訴人7にとって、スイス国籍を取得しても日本国籍を失わない地位にあることの確認を求める今回の訴えは、日本国籍をはく奪されることを防ぐうえで有効な手段です。しかも、現在の訴訟制度には、控訴人7が日本国籍をはく奪されることを防ぐために利用できる訴訟は、今回提起した確認の訴えのほかになく、この訴えは適切な手段です(③)。
以上のとおり、控訴人7は、在外邦人選挙権制限違憲訴訟の最高裁大法廷判決が示した基準を、同訴訟より一層満たしています。
したがって、控訴人7が門前払いされてはなりません。
午後3時からの口頭弁論はいつも30分ほどで終わるのだが、その後は支援者向けの報告会の会場へ移動する。