2022/08/28

空家特措法の話(空き家は地方自治体に寄附できるのか、ほか)

下呂温泉水明館


下呂温泉水明館


だいたい私の宿泊先のホテルや旅館は、建物もきれいで、宿泊客も多く、食事もおいしい。
しかし、宿を出て周辺を散歩すると、街の景色はさびれてて、廃業した旅館があったり、商店街のほとんどが営業をしていなかったり、これが地方の実情なのかと思うことがある。

高齢化と過疎化が進み、空き家、空きビルの利活用は深刻な社会問題となっている。
今回は、最近クローズアップされている空き家問題を考えてみる。
例えば、親族から相続した古い家、荒廃した雑居ビルなどは、売るに売れず、処分に困ることがある。
「不動産」をもじって、これを「負動産」と呼ぶ人もいるようだが。


下呂温泉


下呂温泉


この点、洗濯機やバイクなら粗大ゴミに出せば済むが、いらなくなった建築物はそうはいかない。
取り壊すのはめんどうだし、お金もかかる。
では、放置するとどうなるか、、、
今は空家特措法という特別法があって、行政代執行による取り壊しまでできるようになっている。
この時、取り壊しの費用は原則として所有者の負担となる。
しかし、まあ、空き家の利活用といっても自分では難しい、自分では手に負えない、というのが実情ではないか。


下呂温泉、廃業旅館


前橋商店街、シャッター街


弘前市、空きビル


では、いらなくなった空き家を市区町村や国に寄附し、代わりに有効活用していただこう、というのはどうだろう??
理論的には、国家が国民の資産を取得する場合に、寄附によることは想定されており(国有財産法施行令第9条1項)、不動産の寄附ももちろん可能ではある。
しかし、公権力の公正中立、適正手続(due process of law)の観点からは、寄附は必ずしも適切な方法とは言えず、価値の高い不動産となればなおさらであろう。
戦後まもない頃の閣議決定があり(昭和23年1月30日閣議決定)、それは今も生きていると言われる。
そのため、空き家を国などに寄附するのは難しい。
もっとも、市町村のなかには、街の荒廃を防ぐため仕方なく、空き家の寄附を受け付けているところもあるようだが、あくまでも例外だ。

それなら空き家の所有権を放棄するのはどうだろう??
ようするに、タバコのポイ捨てと同じようなことができないか、ということ。
この時、私は民法239条2項を思い出すのだ。
そこには、持主のいない不動産は、無主の不動産(遺失物のようなもの)にはならず、国庫に帰属する、と書いてある。

これは、所有権放棄により不動産が国庫に移転することを認める条文である。
例えば土地であれば、誰のものでもない土地は「国土」である。
まあ、そりゃそうだよな、と思うのだが、、、誰のものでもない建物も国家のものだというのだ。
理論的には、タバコのポイ捨てができるのだから、不動産のポイ捨てのようなこともできるはず、不動産の所有権放棄もできるはずなのだ。
それは法律上、単独行為といわれるものであるが、そうすると所有権放棄を登記原因とし、国を登記権利者として、単独申請で所有権に関する登記ができる、というのが理論的である。

しかし、実務上、そのような登記はできない(昭和41年8月27日民事局)。
この回答によれば、できない理由は、そのような登記の手続が「ない」からだという。
ただ、手続法が「ない」ことを理由に、実体法上できるはずのことができない、また、それでかまわない、という回答は何やらおかしいと思う。
この回答は、答えになっていない。
この点、手続法が「ない」のはなぜなのか、その理由が重要なのである。
ようするに、条文を作らない理由は何なのかということであるが、恐らく、固定資産税を逃れる目的で所有権放棄をされると国家としても非常に困るからではないだろうか。

(無主物の帰属)
第二百三十九条 所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。
2 所有者のない不動産は、国庫に帰属する。
民法

(法第十四条による協議)
第九条 各省各庁の長は、法第十四条第一号の規定により財務大臣に協議しようとするときは、次に掲げる事項を記載した協議書に必要な図面その他の関係書類及び、寄附又は交換の場合においては、願書又は承諾書を添付して、財務大臣に送付しなければならない。
一 土地又は建物の所在及び地番
二 取得しようとする事由
三 土地の地目及び地積又は建物の構造、種目(第二十条第一号に規定する種目をいう。第十五条の三において同じ。)及び面積
四 評価調書
五 相手方の住所及び氏名
六 予算額及び経費の支出科目
七 交換の場合には、交換に供する国有財産の台帳記載事項
八 交換差金がある場合は、それについてとるべき措置
九 その他参考となるべき事項

第十四条 次に掲げる場合においては、当該国有財産を所管する各省各庁の長は、財務大臣に協議しなければならない。ただし、前条の規定により国会の議決を経なければならない場合又は政令で定める場合に該当するときは、この限りでない。
一 行政財産とする目的で土地又は建物を取得しようとするとき。
二 普通財産を行政財産としようとするとき。
三 行政財産の種類を変更しようとするとき。
四 行政財産である土地又は建物について、所属替をし、又は用途を変更しようとするとき。
五 行政財産である建物を移築し、又は改築しようとするとき。
六 行政財産を他の各省各庁の長に使用させようとするとき。
七 国以外の者に行政財産を使用させ、又は収益させようとするとき。
八 特別会計に属する普通財産である土地又は建物を貸し付け、若しくは貸付け以外の方法により使用させ若しくは収益させ、又は当該土地又は建物の売払いをしようとするとき。
九 普通財産である土地(その土地の定着物を含む。)を信託しようとするとき。