2020/10/31

人生100年時代、他人の失敗談から学ぶ?? それとも、自分で失敗して学ぶ??

こないだ書斎をきれいに片付けた。
そのとき、1年ぶりに名刺を整理した。
紙の名刺はファイルブックに保管し、溜まってきたら一部を処分するのだが、今回の処分候補の名刺の中にDさんの名刺があった。

そういえばDさん、いま、どうしているかな、と思い、名刺の住所をGoogleで検索した。
が、雑居ビルの一室はすでに空き物件。
新型コロナウィルスの蔓延以降、彼とは音信不通なのだ。

私は彼のことを思い出してみた。
彼とはビジネスの交流会で知り合ったのだが、私よりも10才以上年上で、当時、ビルメンテナンス会社の社長だった。
都内の居酒屋で何度か飲んだが、彼は典型的なアルコール依存体質であった。
私の前で浴びるほどの酒を飲み、トイレに行ったまま戻らないこともあった。
また、いつも体調が悪いとぼやいていた。






「ぼくが上京してきた頃はバブルの絶頂期でした。」
「そうですか。」
「バブルなら毎晩、パーティーですよ。」
「そうでしょうね。」
「だから当時、ぼくは仲間とイベントの企画運営会社を始めたんです。」
「おお、いいですね。」
「でも失敗しました。たとえバブルでも、パー券で儲けるのは難しいんですよ。」
「な、なるほど。」

また、彼はこんなことも言っていた。
「バブルといえば株式投資ですよね。」
「まあね。」
「今と違って、当時の日本株は何でも上がったんです。うん、今ではまったく考えられないことなんだけど、買えばものすごく上がった。シロウトでも簡単に儲かった。でも、バブル崩壊で株価が大暴落して、それはもうあっという間の出来事でね、ぼくも仲間たちも大損しちゃいましたけどね。」
「な、なるほど、、、」

いくら損したのかは聞かなかった。
が、彼はこんな感じで、お酒が入ると私に様々な人生の失敗談を話してくれた。
バブル崩壊で大損した後、彼は職を転々とし、苦労があったようだ。
そして数年前、名刺の会社を起業し、そこそこうまくいっているという。
しかし、働きすぎで、1日のほとんどがデスクワークで、肩こりと疲れ目と頭痛がひどい、こればっかりは医者にいっても治らない、といっていた。
なるほど、彼が酒を飲むのは、肩と目と頭の血行をよくするための民間療法なのかしら。

さて、ここからは唐突な話だが、彼の最も重要な打ち明け話を少し話そう。
実は、彼は癌なのである。
医者から余命宣告を受けている。
数年前、余命数ヶ月と言われ、手術をして助かったものの、退院後は再発を心配する日々という。
そろそろ再発の周期に来ている、再発が判明したら、いよいよ自分の人生が終わる。
彼はビールのジョッキを眺め、死ぬ前に故郷に帰りたいと言ったが、彼は長男ではないため、居場所がないそうだ。
そして数ヶ月後、彼から不意のメールが来て、やはり再発したので~と簡単な報告が書いてあった。
それっきり音信不通である。

ええと、この名刺、どうしよう、、、
大事に保管しておいてもしょうがない、シュレッダーにかけよう。
ただ、今は便利なことにスマホのカメラがあるので、Googleのフォトスキャンで撮影してから処分した。
癌が再発し、その後、事務所が空き物件になったから、彼はもう死んだんだと思う。
いやいや、彼ほどしぶとい男なら、何だかんだいって、今夜もどこかの居酒屋で飲んだくれて愚痴っているのかもしれない。
できればそうであってほしいのだが、いずれにせよ、彼は平穏無事に、故郷へ帰れたのだろうか。