浅草の駒形の路地に「Gallery NUAGE」という小さなギャラリーがある。
ここで、ミサキカナさんの個展〜 Kanami bijoux 〜「雲の上のクリスマス」が開催されており、私は夕方見にいった。
Kanami bijouxとは、カナミビジューと読む。
bijouxとはjewelryのこと。
Instagramで関西人の女性が身に着けているのを見て、実物を見る機会があればそのうちに、と思っていた。
店は関西にあると思っていたら都内で活動をしており、今回は浅草の駅近くのギャラリーで短期間の個展をするというので、都内に出たついでに寄ったのだった。
スタッフはカナさんのほかに、背の高いアシスタントの女性がいて、主に彼女のほうが接客を担当していた。
カナさんは物静かで、人見知りする性格のようだ。
彼女のお友達も遊びに来ていたのだが、1人はカナさんの同級生、もう1人はカナさんの仕事仲間であった。
この4人、服装にも会話にもそれぞれ強い個性があり、話を聞いていると非常におもしろい人たちなのであった。
ユニークというか、何というか、、、彼女たちの作り出す世界は、まるで少女漫画の世界のようであり、彼女たちはその登場人物のようである。
それは男性の私には新鮮で居心地がよく、私は少女たちのプライベートな空間に足を踏み入れて楽しんでいる気分だった。
途中、ギャラリーのオーナー(厚川由香里さん)が、みんなにブラックコーヒーと、メリークリスマスと書かれたミニチョコレートを出してくれた。
彼女たちは椅子に座り、あっという間に食べ終えたが、不器用な私はこの紙包みを開けるのにずいぶん手間取った。
するとカナさんのアシスタントをしている女性が私の肩をポンポンと叩き、気にすることはないからね、と励まされた。
私はこの時、自分がここの客ではなくなったような気がした。
食後、カナさんが私のすぐそばで、ピンを使って売り物のジュエリーの調節を始めた。
そこで私は、ジュエリーデザイナーの手先の器用さを目の当たりにした。
そして、つくづく自分はだめだなあ、と思った。
私は料理をするときにも大根の皮をピラーで剥くような人なので、自分の不器用さをどうこう言うのは今さらの話なのだが、、、
それにしても、カナさんの同級生で地味な女性のほうは、冴えない古着を着て、ジュエリーを見ても終始つまらなそうな顔をしていた。
カナさんのジュエリーがどれも似合わないかんじの女性で、そもそもジュエリーを欲しがる様子も見られなかった。
しかし彼女は、何らかのジュエリーは買って帰る、と言うのだった。
私は、同級生の義理で買いに来たんだな、と思った。
さて、彼女と少し話した。
私はこの日の午前中、鴎外記念館に行ってきたのだが、彼女が本好きだというので私は森鴎外の話を彼女にふってみた。
すると彼女は、鴎外なんて大嫌い、と言った。
「どうしてです??」
「女から見ると鴎外は自分勝手な男です。東大卒の完璧な男でもあるけれど、私はそういう男性はいけ好かないのよ」
「なるほど、、、」
「太宰治がいいわ。太宰はだめなところがいい」
「だめ、といいますと??」
「せっかく恵まれたものを持つのに、自ら壊してだめにしてしまうようなところです。愚かな生き方だけど、私には何だかその気持ちが分かるんです。私もそういう人間なので、そういうだめな男性に魅力を感じます」
「なるほどぉ、、、そういう男性の好みもあるんですね。私はあなたの話に勇気付けられました♪」
しかし間もなく、そんなだめっぽい同級生を、カナさんは優しく鏡の前に連れて行った。
一緒にアクセサリーを合わせ、これがいい、あれがいいと言い合う2人の姿が仲睦まじく、印象的であった。
なんだか映画のワンシーンのような写真なのだが、Kanami bijoux を身に着ければ、彼女たちはいつでも少女時代を取り戻せるということなのだと思った。