2023/10/25

雅叙園の忘れ物

東劇でMETのオペラを2本見てきたのは、9月のことだ。
そのうちの1本は、定番中の定番、プッチーニの「トゥーランドット(Turandot)」である。

プリンセス・トゥーランドットは中国の紫禁城で父親とともに暮らす絶世の美女で、常に他国の貴族や王子などから言い寄られている。
ただ、強烈な男嫌いで、全ての男たちを拒絶している。

トゥーランドットは求婚されるとその男を殺してしまう!

拒絶にも限度があると思うが、残忍で冷酷な中国のプリンセスということで、業界有名人(?)となっている。

彼女は求婚者に3つの謎かけをする。
全問正解なら結婚すると約束をするが、難問なのでどうせ解けないのだ。
これまで挑戦者の男たちは全員処刑され、城下町の道ばたにその生首が吊るされている。
今回は、戦争に敗れ放浪中のカラフ王子がトゥーランドットにひとめぼれをし、3つの謎かけに挑む。

そんなストーリーである。

(2023/10/18「トゥーランドットは求婚されるとその男を殺してしまう!」より)




というわけで、プッチーニのオペラ「トゥーランドット」を見た私は、この世には、求婚されるとその男を殺してしまうコワーイ女がいる、ということを知った。
そして後日、雅叙園に日本ソムリエ協会のブラインドテイスティングコンテストの決勝戦を見に行った。
今回は、その後日談である。

実は、このとき私は、雅叙園に忘れ物をしてしまったのだ。
ベルスタッフに連絡をし、忘れ物を取りにいくと伝えたが、なかなか行けずにいた。
しかし、ようやく、10月19日、富田菜摘さんの展示会を見た帰り道、目黒に寄り道をして取りに行ったのだった。






エントランスで忘れ物を受け取り、ホテルを出た私は、雅叙園の敷地内の古井戸の前で立ち止まった。
番町皿屋敷みたいなシチュエーションで、以前から気になっていたが、案内板には「お七の井戸」と書いてあった。

「八百屋の娘お七は、恋こがれた寺小姓吉三あいたさに自宅に放火し、鈴ヶ森で火刑にされた。吉三はお七の火刑後僧侶となり、名を西運と改め、明王院に入り~」(雅叙園案内板より抜粋)




これは、、、女性は好きな男性に会いたくても自分から会いに来ない、連絡もしてこない、という話が、こじれたのである。
今なら、携帯電話、メール、SNSほか、様々な手段で連絡が容易だが、昔はそうではなかったから、女性はじっと待つだけで、さぞかし恋愛ストレスがたまっただろう。
しかし、現代でも、男性から女性に声をかけにくい場合もあると思うので、そういう場合には、女性が大胆な行動に出て、男性を捕まえる必要があるのかもしれない。




雅叙園を出て脇道の急坂を上った。
途中に、大圓寺というお寺がある。
ここも、普段、人が出入りしているのをよく見かける。
境内に入ってみると本堂の左手に、拝むと悩みがなくなる「とろけ地蔵」というのがあった。
どうやら、ここが、参拝スポットのようである。

私も賽銭を投げ入れて、拝んでみた。

その後、境内の反対側に行くと、掲示板にこんな言葉があった。




おお、これは、、、トゥーランドットの物語を理解するのに、うってつけではないか!

ほとんどの物事は一過性であるが、愛とは消えないもの、永遠のものの典型である。
そうであれば、彼に対して愛情を抱いたプリンセス・トゥーランドットが、同時に恐怖を感じたのは自然なことだ。
彼の愛情が強ければ強いほど、より恐怖を強く感じただろう。
その恐怖を振り払うため、彼女は、より思い切った拒絶の行動をとる必要があったのだ。

世の中に男女の恋愛をめぐる殺傷事件は五万とある。
この世には、求婚されるとその男を殺してしまうコワーイ女がいるということも、決してドラマの見過ぎではなく、私たちの周辺に本当にある話なのかもしれない。
しかし、トゥーランドットの物語がそうであったように、激しい感情を抱く女性なら、それを良い方向に爆発させることで、劇的なハッピーエンドに転ぶ可能性が高い。
それこそ「最後に愛は勝つ」ということになるのではないだろうか。