昭和女子大学現代ビジネス研究所には、有志の参加する「日本経済研究会」という勉強会がある。
講師は、介護保険制度の創設や、小泉竹中構造改革にも関わった八代尚宏教授(労働経済学)である。
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生徒は少数精鋭だが、私以外は、スゴい人たちばかりである。
(講師)
八代尚宏教授
(司会進行)
K先生
(生徒)
内閣官房のA氏
財務省のB氏
元シンクタンク社長のC氏
元保険会社社長のD氏
元銀行取締役のE氏
元保険会社社長のD氏
元銀行取締役のE氏
あんみつ先生(*'ω'*)///ハ~イ!!
八代先生の講義は、私のような者にも大変分かりやすいもので、世間一般に誤解されていることが、どうして誤解なのかも含め、よく分かった。
以下、要注目の内容をピックアップしていきたい。
私の出した感想を一部紹介することにもなるが、基本的には、八代先生の講義の内容及び見解に則した、まとめ的なものとなっている。
前回の記事の続きであるが、今回は、日本経済研究会のダイジェストの第2回目である。
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(参考文献:八代教授「日本経済研究会」資料より引用)
第5回は、小泉政権と郵政民営化、構造改革特区。
上記2枚の図表を見ると、まず、正社員雇用はバブル崩壊後も減っていないことが分かる。
他方で、非正規社員が右肩上がりに増えているが、その多くはパートの女性とリタイアした高齢者の嘱託である。
そして、非正規雇用の代表格のように言われる派遣社員は、非正規全体の7%ほどにすぎず、とても少ない。
悪とみなされている派遣が、実は、失業者のセーフティーネットとして有効に機能していると考えられるのである。
ここで重要なのは、日本経済がこれだけ落ちぶれても、なお、正社員雇用がきっちりと守られていることだ。
今後もほとんど成長が期待できない、低成長の日本経済で、ここからさらに正社員雇用を増やす・・・普通に考えると、それは無理である。
しかし、優秀な人材のほしい企業は、しかるべき人を正社員の待遇で雇用したいわけである。
では、どうすればよいか?
金銭を払って正社員を解雇できるようにする「解雇の金銭解決制度」を導入する。
そうすることで、パートの優秀な女性や、非正規の男性が、仕事のできない男性正社員と、どんどん入れ替わる、というのが現実的で妥当な解決策である。
ただ、株主、経営者、非正規にとっては良いことだが、正社員は安定雇用を脅かされるため、労働組合とそれを支持母体とする政党の強い抵抗があって、ちっとも進まない。
そこで、当面は、管理職の女性の割合が13%と、先進国の中でも低いことに着目し、男性管理職を減らして、その席に優秀な女性を据える・・・これくらいならできそうだ。
しかし、これも、なかなか進まないのが日本の保守的で閉鎖的な労働市場の現状である。
(参考文献:八代教授「働き方改革研究会」資料より引用)
なお、小泉さん竹中さんは、派遣解禁をしたトンデモない人たちだ、という意見があるが、実際に派遣解禁を決めたのは、1999年の厚労省である。
厚労省の決めた派遣解禁が、労働組合の強い要求~政治家の圧力で、5年ほど延期されたのだ。
そのため、タイミング的に、まるで小泉さん竹中さんが派遣解禁をやったように見えている。
ということで、労働組合が正社員雇用をガッチリと守り、小泉さん竹中さんを悪者にし続けて、改革をいまも阻止している構図があるのではないか、ということになった。
このような状況からすると、マスコミは、派遣などの非正規雇用の制度ではなく、身分保障の強い正社員雇用の制度の方を、問題視すべきだろう。
だが、現在のマスコミは、インターネットの新興勢力に押され、弱体化し、改革の主張がしにくくなっている。
じり貧のマスコミにとっては、世の中の現状維持と規制強化が自分自身の安定や利益に資するだろう。
また、マスコミとて商売をしているのだから、お客様(読者、視聴者)に支持されるために、お客様の喜びそうな論調で書かざるを得ないということもあるだろう。
ということで、マスコミがポピュリズムに陥らず、しっかりと意見を発信する必要がある、だからこそ、言論の自由が大事、ということになった。
(参考文献:八代教授「日本経済研究会」資料より引用)
講義は、後半で、郵政民営化の話になった。
まず、新自由主義について。
構造改革といえば新自由主義だが、新自由主義は一般の人たちに誤解されている。
新自由主義は、市場に介入せず、市場が無法地帯になることを容認するかのように言われることもあるが、そうではないのだ。
政府が市場あるいは民間に対し、正しく介入すること、一定の歯止めをきかせることは必要と考えている。
ただ、政府のやるべきことを明確にし、政府がやるべきことはやる、やらなくてもいいことはやらない・・・つまり、政府と民間の役割分担をきちんとやって、無駄を省くということが重要である。
すると、日本では、政府が余計なことをたくさんしていると分かるので、民営化する必要があったり、規制緩和をする必要があったりする、ということになるのである。
続いて、郵政民営化の評価について。
小泉政権で構造改革特区に関わった八代先生は、次のようなポイントを指摘し、郵政民営化は中途半端、という評価をした。
・民営化後も、政府が依然として大株主で、世界の常識では、これを民営化したとはいわない
・民営化のさいには分割もしなくては意味がない。3事業の機能を分割しただけでは不十分である。要するに、店舗としてはまったく分割していないわけであるから、分割はしていないということである
・新自由主義の考え方だと、郵便局は、結局、郵便配達だけやっていればいいということになるが、そこまで解体するのは現実的には無理だった
・信書の秘密の保護の名目で、郵便事業が独占となっているのが問題で、そこはぜんぜん変わっていない
結局のところ、小泉政権の郵政民営化は、達成感はあったものの、反対派との駆け引きもあって、中途半端に終わった。
このような民営化をするなら、郵政公社のままでかまわなかった、民営化しない方が良かったが、それだと反対派の味方をすることになる(特定郵便局という世襲公務員の既得権を守ることになる)ので、それはできなかったという。
もっとも、小泉政権の成し遂げた構造改革は、郵政民営化以外にたくさんのものがあり、トータルでは、素晴らしい功績をあげたという点は変わらない。
後日、現代ビジネス研究所の懇親会があり、八代先生と話す機会があった。
先生は、正しいことは正しい、間違っていることは間違っている、という理論家である。
そのため、ときに冷たい人だといわれることもあるといっていたが、それでは議論にならない。
そもそも国民どうしは家族ではないのだし、温かい冷たいという感情論ではないということ。
八代先生の第6回以降の講義は、⑥アベノミクス(第二次安倍政権)、⑦岸田政権、⑧年金問題、⑨医療介護問題と続いたが、私は、全ての講義を聴いた。
構造改革推進派の八代先生の講義のクライマックスは、第5回の小泉政権であり、これは、当時の裏話も含めて非常に面白かった。
しかし、実はそれ以降、構造改革推進派は、政権から遠ざけられるようになってしまったのである。
なぜかというと、リーマンショック、円高不況で日本経済は大きなダメージを受けてしまい、アベノミクス以降は、痛みの伴う構造改革よりも、大規模金融緩和で、みんなで仲良くやっていこう、という時代の流れになったからである。
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(参考文献:八代教授「日本経済研究会」資料より引用)
ただ、そこから10年以上が経過し、結果として、現在の日本銀行の資産状況は、GDP比率で見ると、ひどい状況になっている。
これが、現在のひどい円安と物価高騰を招いており、投資家や投機筋が円売りをする最大の理由になっていると考えられる。
政治的信条に関わらず、私たちは、このことは知っておきたいものだ。