2025/03/04

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  • とるに足らない雲の力学

■執筆者
加藤光敏
詳しいプロフィールについては、KADOKAWAのウェブサイトをご覧ください。

■連絡先
会社のウェブサイトのContactよりお問い合わせいただけます。

2025/03/01

とるに足らない雲の力学

2月のある日。
朝のニュースでは、この冬、最も寒くなるといわれていた。
私は、最も厚いマフラーをひっかけて家を出た。

お昼前に、銀座に着いたが、非常に寒かった。
私は、歌舞伎座の方へ歩き、脇の路地を歩き、ギャラリームモンという小さなギャラリーへ。
ギャラリームモンでは、新春恒例のグループ展「鸞翔鳳集 RAN SHO HOU SYU」が開催されており、その案内が来たので、ふらりと立ち寄ったのだ。
その後、4丁目交差点のソニーギャラリーの展示会に行った。
今回の展示会のタイトルは、「とるに足らない雲の力学」。







田凱氏によるこの写真展は、非常に良かった。
展示されている写真は、平凡な日常の中にある景色だが、田凱氏の解説を読むと、興味深い詩が書かれていた。
私は、立ち止まって考えた。

彼の詩によれば、「それは探し求めるものではなく、 ある瞬間、不意に訪れるもの」だという。
そして、「私はイメージを捕まえない。イメージが私を選ぶのだ」とある。

さらに詩はこう続く。

「都市の喧騒の中で、その手は触れない。むしろ、カメラがそっと撫でるように、 世界を映し取る」「すべては自然に、あちら側からこちらへと、私の内に降り立つ」




以下は、私なりの解釈である。

フォトグラファーの彼が、とびきり美しい女性や芸術的な景色を探し求め、撮影の旅に出る。
しかし、あちこち回って、お目当てのものを捕まえにいくと、なかなかイイ写真がとれない。
そこで、野原に寝転んで、ぼんやり、雲を見上げていると、ある瞬間の雲の形状が芸術的で、彼の理想とする写真にハマっていたりする。

彼は、その雲を見て、感動して、直ちに写真を撮る。
ただ同時に、少しガッカリもするだろう。
明日からは、撮影の旅に出ず、ただ、雲を眺めていればよいではないか。

勤勉で忙しくしている人間より、さぼっている人間の方が、成果が出てしまう。
意外と世の中、そんなものではないだろうか。





私は、そんな解釈をして、ソニーギャラリーを出た。
エスカレーターをおりて、2階の日産のショールームの窓際で休んだ。
椅子に座り、4丁目の交差点を見おろすと、和光のビルの時計が、ちょうど3時を指すところだった。

まもなく、鐘が鳴り始めた。
私は、これは良いタイミングだと思い、スマホで撮影をした。




その後、往年の名車「ダットサン」の真っ赤な車体に目がいった。
現在の基準では、スタイリッシュではないのかもしれないが、とても、かわいらしい車である。

日産自動車の傑作だ・・・いや、待てよ、、、(*'ω'*)

いま、日産自動車は経営危機で、ホンダとの統合でも、もめている。
経営が火の車なので、ダットサンの赤を展示したのでは?




1階のショールームのフォーミュラカーも真っ赤だった。

私は、その後、向かいの三越へ。
喫茶店を探したが、2階に「ラデュレ」というおしゃれな喫茶店があったのに、それがない。
インフォメーションの女性に聞くと、すでに1年ほど前に閉店した、といわれた。

アレ、、、そうだっけ?(*'ω'*)






私は、三越を出て、銀座駅の地下道を歩いた。
和光ビルの地下の出入口にショーウィンドウがあり、色鮮やかな赤いドレスが飾られていた。
これが、ひときわ、私の目をひいた。
確かに、紺や白のドレスよりも、赤いドレスの方が、女は目立つ。
銀座の待ち合わせでも、人込みの中で、男にすぐ見つけてもらえる。

それにしても、私は、先ほどから、赤いものばかり見かけるが、最近の銀座のテーマカラーは、赤なのだろうか。

その後、私は、スターバックスへ。
あえて、パッションティーを頼んだ。
テーブル席に座り、鮮やかな赤のパッションティーを飲むと、私は、「赤」=「情熱」=「パッション」ということを思った。




しかしながら、先ほどの「とるに足らない雲の力学」は、情熱とは相反する、受け身の極意だと思うのである。
自分から探さず、偶然に身を委ねる。
それは、写真家としての彼の自信の現れなのだと思う。

勤勉で忙しくしている人間より、さぼっている人間の方が、成果が出てしまう。
意外と世の中、そんなものではないだろうか。

私は、いつも、アートに学ばせられる。
私は、受け身でいることにした。

白いドレスの美女は探し求めるものではない。
ある瞬間、不意に訪れるものだ。
私は彼女を捕まえない。